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おっちゃんの「課外学習」

2008年9月30日

白線の論理と倫理 vol.4 筒井康隆の予言。

筆者:おっちゃん関川夏央さんの『家族の昭和』を読んでいると、驚くべきことを思い出した。
昭和60年頃、日本はバブル景気の前夜だった。好調な対米輸出により、貿易収支は10兆9000億円の黒字。財政赤字と貿易赤字の「双子の赤字」に悲鳴を上げるアメリカ・レーガン大統領から、中曽根首相は、「アメリカ製品を買え」と圧力をかけられる。


昭和60年4月9日、圧力に屈した中曽根首相は、「全国民100ドルずつアメリカ製品を買うよう」に、国民に呼びかける。100ドルとは、当時で2万6000円相当。通産省は、購入リストまで用意して新聞で発表した。
― 「紳士方に」と但し書きされた部分には、「ウイスキー(一本)三八〇〇円、タバコ(一カートン)二八〇〇円、ライター 一〇〇〇〇円、ネクタイ(一本)七〇〇〇円、ダイアリーノート(手帖)四〇〇〇円」とあった。
皆さん、よくご覧いただきましたか。20年前には、政府は、たばこを喫うように奨励していたんですよ。当時、20歳の青年に勧めていたとすれば、いま、40歳代以上には、喫煙環境を整える責任があると思うのですが。

さて、その2年後、昭和62年に筒井康隆は短編小説「最後の喫煙者」を発表した。追い詰められる日本国の喫煙者を予言した。筒井康隆は、ホンマに凄いなあ。

小説は、東大安田講堂の全学連のように、追い詰められた喫煙者のシーンから始まる。
「国会議事堂の頂きにすわりこみ、周囲をとびまわる自衛隊ヘリから催涙弾攻撃に悩まされながら、おれはここを先途と最後の煙草を喫いまくる。さっき同志のひとりであった日下部さんが、はるか地上へころがり落ちていったため、ついに俺が最後の喫煙者になってしまった。」
15、6年前から禁煙運動が広がり、喫煙者への弾圧が6、7年前の頃から勢いを増してきた。家に閉じこもって小説を書いていた俺は、世情の流れに疎かった。ヘビースモーカーの俺を咎める人もなく、家族にも黙認されてきた。しかし、嫌煙運動の旗頭の女性編集者を追い返してから、風当たりがきつくなってきた。世間を狭められてくる。

喫煙者の小説家は、マスコミで叩かれ、公園には「犬と喫煙者立入るべからず」と張り紙をされ、外国製煙草は輸入禁止で手に入らなくなり、新幹線の乗車料金は「喫煙車両2割り増し」になり、煙草屋は村八分で追い出され、タバコが手に入らなくなり、ついに、日本たばこ会社が焼き討ちにあい、警察や自衛隊まで動員して、小説家を征伐にやってきた。
いよいよ、家が襲撃される。日本でふたりだけになった喫煙者の画家が、小説家の家に逃げてくる。家は、押し破られ、六本木の秘密のアジトに篭る。「最後の喫煙者」として追い詰められる。そこも追われ、小説家は画家の友と国会議事堂まで逃げ延び、玉砕を覚悟する。

国会議事堂に追い詰められた俺と友。友は、催涙弾の直撃を受け、墜落した。
地上で、花見気分で酒など呑み、浮かれている群集がわっと喚声をあげ、声をあわせてはやし立てる。
地球上で最後の喫煙者になった俺は、それから2時間以上も戦う。
しかし、いつの間にか、地上がひっそりしていた。ヘリコプターもいなくなっていた。
誰かがマイクで喋っている声が聞こえてきた。
「...と、なるでありましょう。その時後悔しても追いつきません。これは重大な損失となります。いまや彼は貴重な、喫煙時代の遺物なのであります。天然記念物であり、人間国宝ともなり得ましょう。保護してやらねばなりません。皆さん。ご協力をお願いします。くり返します。こちらは本日、緊急に発足いたしました喫煙者保護協会であります。」

赤軍派の東大講堂を思い出す。しかし、助っ人が現れる。喫煙者保護協会が、いまや天然記念物となった「最後の喫煙者」の保護に乗り出すことになる。
「喫煙者差別もついには魔女狩りのレベルにまで達したが、差別する方はこれを愚行とは思っていないのだから始末が悪い。宗教とか正義とか善とかいう大義名分がある時ほど人間の残虐行為がエスカレートする時はないのだ。喫煙者差別は健康という名の現代的宗教のもと、正義と善を振りかざし、ついに殺人に及んだ。」 
この筒井康隆のメッセージが、強い印象に残った。

喫煙者もそうや。「社会悪」のレッテルを貼られ、「追い詰められている」「間引きされる」、あるいは、「隔離」される。だから、路上の喫煙コーナーの白線に、「隔離」を感じてしまう。それとも、善良なる社会の「思いやり」や、と感謝せんとアカンかいな。決して、悪気があるとは思わないけれど、「隔離」気分も否定できない。年齢のせいで、僻みっぽいおっちゃんだけの心理やろか。

よっしゃ、調べたろ。

(つづく)

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