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おっちゃんの「感想・鑑賞録」

2013年8月29日

『あの夜、君が泣いたわけ-自閉症の子とともに生きて』野沢 和弘

筆者:おっちゃん社会免疫疾患

夜の11時ぐらいまでに家に帰ったときは、
わが家の愛犬と散歩する習慣がほぼ出来上がっている。

いくつかのコースがあって、日によって愛犬が選ぶ。
コースの途中には、いくつかのおやつスポットがある。
そこに近づくと立ち止まり、私の顔を見上げる。

ところが、同じ道なのに、
行きにはおやつをせがむのに、逆方向の時は気づかない。
行きは道の左側、逆の時は、右側を歩くからか、と言えば、
そうではない。
同じ側を歩いても、進行方向によって、
愛犬にとっては、おやつスポットになったり、違ったりする。
人間にとっては、同じ道なのに、犬にとっては違う道なのだ。

この著者の息子さんは、強度の自閉症だという。
だから、著者と息子さんの世界も違う。
息子さんは、言葉でその違和感を伝えられない。
父である著者には、その伝わらない理由が分かる。
しかし、息子さんには、それすらも分からない。
もどかしいことだろう。
つい、からだで訴えることになる。

著者の知り合いにも、自閉症の息子さんがいる。
その人は、息子さんといっしょに「トンカツ」を買いに行ったら、
残念ながら売り切れていた。
幼い子なら泣き叫ぶかもしれない。
もう少し大きくなれば、「ハンバーグにしようね」と宥めることもできるかもしれない。
けれど、同一性保持に強いこだわりのある自閉症児にとっては、大事件なのだ。
息子さんは、トンカツがなければ、ハンバーグで済ますことができない。
パニックになった息子さんは、父の二の腕を引っ掻いた。

でも、どちらが正しいのか、と言えば、
トンカツとハンバーグは違う方が正しい。
「トンカツ」と「ハンバーグ」の共通点すら、曖昧だ。
でも、おかしいのは、この知り合いの話を、
著者と息子さんが電車の中でいっしょに聞いていて、
     窓の外を眺めていた私の長男は人差し指で教授の手を指し、軽くさすった。
     言葉によるコミュニケーションができないのだが、
     まるで私たちの会話の内容を理解しているかのようなタイミングだった。
     <まあ、大目に見てやってよ>
     そんなことを言っているような仕草だった。
自閉症の人は、コミュニケーションが苦手というけれど、
それは、マジョリティのわれわれが、常識を握っているからだろう。

近所の家に突然上がり込んで、
大声で叫ぶ自閉症の子どもも、登場する。
上がり込まれた家の人は、当初、うろたえたが、
追い出すこともなく、警察を呼ぶこともなく、済ませたという。
それから毎日のように来るようになった。
別に危害を加えることもない。
その頃、近隣の町では空き巣が横行していた。
町内会としては、防犯カメラの設置などが検討されたが、
大した対策は取られなかった。
しかし、一軒も空き巣の被害は出なかった。
やはり、自閉症の男の子が
いつも声を出していてくれたからではないか、というのが結論になった。
     防犯カメラや厳重な施錠よりも自閉症の子の方が空き巣を寄せ付けない威力がある、
     というのは何てすてきな発見なのだろう。

自己免疫疾患が増えている。
自分の体に入った異物を攻撃するのが、免疫の仕事なのに、
自己の体そのものを攻撃する。
社会の中にも免疫疾患が広がっている。
社会免疫疾患と名付けたくなるぐらいに。

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