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おっちゃんの「感想・鑑賞録」

2012年3月07日

『雪やこんこん』 こまつ座

筆者:おっちゃんはじけた涙の結末は。

ラストシーンで、突然、泣きました。
涙がはじけるように飛び出しました。
笑いは、はじけることがあるけれど、
涙は、ふつう、にじむとか、こぼれるとか、です。

いい笑いは、不意打ちです。
涙は、心の準備ができています。
しかし、この時、わたしには、まったく予感がありませんでした。
なにしろ、おかしくて笑っていたのですから。
自分の涙に気づいて、
周りを見渡すと、みなさんも満足げな笑顔です。

なぜ?
3月3日(土)に芝居を見てから、
きょうの7日まで、ずっと、なぜだろうと、考えていました。
その訳が見えたと思ったら、毎日のように変わりました。
ここで書くことも、今日現在の思いです。

この芝居は、ご承知のように、井上ひさしさんの作。
戦後、黄金時代を迎えた大衆演劇が、少し下火に差し掛かったころの話です。
女座長率いる「中村梅子一座」が、
雪深い温泉の芝居小屋にやってきて、その楽屋でのてんやわんやです。

わたしは、大阪は新世界で、高校の頃、学校をさぼって遊んでいました。
身を隠すところに困り、大衆演劇の小屋にもぐりこんだこともあります。
その時の記憶が甦る。ただただ「ションベン臭い」。
台詞は、もっとクサかった。

けれど、このお芝居で流れる古い曲は、なつかしい。
春風に包み込まれるように。
時代がかった台詞が、美しい。
音楽のように、心を流れる。

ふつうの会話、
そこに芝居の台詞の引用が入る。
ただの引用ではなく、芝居そのままのしぐさ、言い回しで演技になる。
生活に取り込まれた芝居の台詞。
そうだ、昔の人は、芝居の台詞のなかに、人の生き方を見ていた。
世の中でも共有していたから、生きる力になっていた。
芝居に支えられていたんだ。

それに加えて、この芝居では、当然ながら、芝居稽古の劇中劇も加わる。
さらに、座長と小屋の女将とが結託して、座員に向けた一芝居もある。
いや、正確に言えば、二芝居。
いやいや、ひとりひとりが、自分を見抜かれないためのウソという芝居もある。
待て待て、自分に気づかれないための、自分に向けた演技もある。
こんがらがってくる。

舞台を見ながら、幼いころ耳にした、
おばあちゃんの「でたらめ訓示」も思い出す。
「いまだよ、お天道様もよそ見している」
「嘘も方便。三文の徳」
「でたらめ八百八町」などなど。

そこで、ラストシーンになった。
中村梅子一座は、全員勢揃いして、心をひとつにして、芝居準備に入る。
客席に向かって、横一列に並んで、ドーラン化粧。
真っ白けに塗りたくって、役者の笑い顔が、こっちに迫ってくる。
喜びにあふれた大団円。
わたしは、ここでいきなり涙がはじけたのだ。

ここは、感極まって、感情が噴出する場面。
梅子一座の面々は、自意識を忘れ、「素」の感情を表現するところだ。
しかし、ここに、わたしは、いちばん演技を感じた。
われわれが、「素」と信じているのは、
実は、「いちばん体になじんだ演技」なんじゃないか。

座長役の高畑淳子さんの、客席に身を乗り出すように喜びを表現、
右端の女将役のキムラ緑子さんの真っ白けの顔の満面の笑みを見ていると、
そのふたりのからだと目が、私に言った。
「さあ、芝居は終わったよ。
あんたたちも、芝居に戻りな」

人は、芝居に生かされている。

(東京公演は、3月11日まで。)

紹介演劇データ

  • タイトル:『雪やこんこん』
  • 劇団:こまつ座
  • 作:井上ひさし
  • 演出:鵜山仁
  • 公演日:2012年3月3日
  • 劇場:紀伊國屋サザンシアター

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