「個室都市 東京」 Port B
あなたはだれですか?
「出会いカフェへようこそ」。
あやしい雑居ビルの3階。木でできた古ぼけたドアを開けると、
ボーイが出てきてそう言った。
えっ? と思って見まわすと、薄暗い店内。
左の方から、明るい光が差し込んで。
光の向こうに5~6人。立ってる人。座ってる人。談笑してる人。
性別・年齢はさまざま。
あ、ゴスロリっぽいカッコの女の子がいるな。おばさんと話してる。
「マジックミラーですから、向こうからは見えません。
お好きな人を選んで、ご指名ください」
なるほど、そういうこと? 僕の目は、すこし真剣になる。
ここは池袋。
10分前まで、僕は西口公園の個室ビデオ店にいた。
ヘンな個室ビデオ屋だ。エロいDVDなんか一枚もない。
棚には、人の顔がパッケージのDVDがずらりと並んでる。
とりあえず適当に何枚か選び、リクライニングシートに沈み込んで、
プレーヤーにDVDを入れる。
パッケージの人物へのインタビューだ。
「昨日の今頃、なにをしていましたか?」
「マクドナルドへは、よく行きますか?」
「一日にお金がいくらあれば、足りると思いますか?」
「日本は外国からの労働力をもっと受け入れるべきだと思いますか?」
「難民について、どう思いますか?」
矢継ぎ早の質問。なんだこれは? 聞かれた方も、考える間もなく答える。
言い終わらないうちに、次の質問。
最後の質問では必ず「あなたはだれですか?」と聞く。
素直に名前をいう人もいるし、
ちょっと考えて「日本人です」とか「ロックなオヤジです」とか言う人もいる。
何人か続けて見ると、おもしろい。
もちろんこれは本物の個室ビデオじゃなくて、演劇の公演だ。
Port Bによる「個室都市 東京」では、
池袋中央公園の広場に作られた個室ビデオ店(に見立てたブース)で、
公園に集まる人たちへのインタビューを観る。
単純に、いろんな人がいて、いろんな考え方があるんだ、と感心する。
誰の答えがよくて、誰のが悪い、なんてことは思わない。
短い答えにも、「フツー」の答えにも、答えられないで困っている人にも、
「なるほどねえ」とうなずき、引き込まれる自分を発見する。
そう、つまんない人なんて、いないんだよね。
ツアーがある、と言うので、参加する。
「避難訓練だ」と言われて地図を渡される。
個室ビデオを出て、地図を見ながら、誘導マークをたどってたどって、
たどり着いたのが、冒頭の「出会いカフェ」だ。
出会いカフェで待っているのは、DVDでインタビューされていた人たち。
僕はMさんを指名する。
サングラスをかけた、ちょっとパンクな中年女性だ。
映像では男言葉でハキハキ答える姿が印象的だった。
ちょっとの待ち時間の後、呼ばれて個室へ。Mさんがもういた。
座るや否や、質問が始まる。
「昨日の今頃、なにをしていましたか?」
「マクドナルドへは、よく行きますか?」
「一日にお金がいくらあれば、足りると思いますか?」
「日本は外国からの労働力をもっと受け入れるべきだと思いますか?」
「難民について、どう思いますか?」
あれ? 今度は僕が取材対象か。
しかもさっき画面に出てた人に、インタビューされてる。
なんかうれしくてニヤニヤしながら、インタビューを受ける。
最後の質問は「あなたはだれですか?」
おお、覚悟はしてたが、正面切って聞かれると答えづらいな。
結局フツーに、自分の名前を答える。うーん、常識人。
その後は、フリートーク。結構盛り上がる。
いろんな話をした。僕もしゃべったけど、Mさんもしゃべった。
この公演を通じて、すごくたくさんの人と話してるだろうに。
で、時間はあっという間に過ぎ、お別れ。
もう少し、話していたかったな。
「誰でもない人」どうしが、ほんのちょっとだけすれ違う。
たまには、ちょっとだけ触れ合う。
それが個室都市・東京。
少しあったかくて、けっこうさみしい。
でもそれがいとおしい。都会って、いいもんだよね。
ツアーの最後に、Mさんが見せてくれたものがある。
それがなにかは言わない。
僕とMさんとの秘密にしておこう。
(いや、ツアーに参加した人はみんな知ってることですけどね)
さて、最後に質問です。
あなたは、だれですか?
紹介演劇データ
- タイトル:「個室都市 東京」
- 団体:Port B
- 演出:高山明
- 公演日:2009年11月
- 劇場:池袋西口公園(池袋)





