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おっちゃんの「感想・鑑賞録」

2009年4月03日

「転校生」SPAC

筆者:いぬ揺さぶる。その先にある「生」の感触へ。

「6時5分、ちょうどを、お知らせします」。
劇場内に響く時報。
無機質な女の声が開演時間を告げると同時に、
たくさんの照明機材がつり下げられた「バトン」が上がる。

次の瞬間、舞台にあらわれたのは、女たち。
若い女たちだ。
制服を着ている。女子高生だ。
女子高生たちが、階段状に組まれた舞台のあちらこちらにあらわれる。
座ってサクソフォンを吹く子。本を読む子。
舞台の上をぐるぐる駆け回り続ける子。
ただ、それだけ。まだ何も起こっていない。
それなのに、わけもなく、心動かされていた。

SPAC(静岡県立舞台芸術センター)製作の「転校生」。
1994年に、平田オリザの作・演出によって初演された。
それから十数年後、2007年に静岡で行われた飴屋による再演が高い評価を得て、
今回の東京公演につながった。
オーディションによって、
演技の経験のない、一般の女子高生を集めて芝居を作るやり方は、
初演の時と変わらない。

ある朝、学校に一人の転校生がやってくる。
転校生は、老いた女だ(彼女だけは、プロの女優)。
朝起きたら、この学校の生徒になっていたという。
クラスメイトたちは、とまどいながらも、彼女を受け入れていく。
受け入れる過程で、自分とは何か、他者とは何か、世界とは何か、
考えていく、学んでいく。
「異物」を受け入れる過程で生じる摩擦やとまどい、若者の普遍的な思考と成長。
それらが等身大の言葉で語られて、身に迫る。
舞台上の女子高生の悩みや成長を、僕も共有している気になった。

しかし僕がみつめていたのは、ストーリーやせりふよりも、
演じる女子高生そのものだった。
そこにあったのは、演技を、役柄を超えた、一人の女子高生のカラダだ。
いや、もう、女子高生ですらない。単なる一匹の「生物」のカラダ。

僕たちのカラダには、いろんなものがまとわりついている。
「人間」であること。
「女」であること。
「若者」であること。
「日本人」であること。
「女子高生」であること。
「笑わせキャラ」であること。
そのまま立っていても、まとわりついたものは、はがせない。

だから、揺さぶる。
生の不条理、死をめぐる考察、
世界中の高校生をめぐるさまざまな状況。
なぜ、「いま、ここ」にいるのか。
これから、どこへ行くのか。
「転校生」という異物を、女子高生の群れの中に放り込む。
テキストや映像を使い、この世界にあふれるさまざまな情報を詰め込む。
彼女たちに語らせ、観客に考えさせる。
そのうちに、観客の意識と彼女たちのカラダは、
ぐらぐらと揺さぶられ、不安定になる。

あらゆる価値や意味を取り除いたときに、残るカラダ。
そこには「生」の手触りがある。
戯曲を踏み台にして、リアルな「生」へと手を伸ばす。
「生」の感触をすくい取る。

  「わたし、明日もまた、この学校に来られるのかな」
  「大丈夫だよ」

放課後、転校生の発した不安。
まったくあてにならない肯定の言葉で返す。
揺さぶられたカラダ。不安定なまま、芝居は終わる。
芝居が終わると、出演者は一列に並び手をつなぎ、
「せーの!」と叫びながらその場で飛び上がる。何度も、何度も。
着地するたびに、「ドン」と大きな音がする。

ただ、生きている。
そのことだけが、たまらなくいとおしい。
「ドン」と鳴る、その響きの重みは、彼女たちの「生」の重みだ。

時報の音が大きくなった。
無機質な女の声を再び聞きながら、
わかったことが、2つある。
出演している女子高生も、それを観ていた僕たちも、
確実に、1時間50分(上演時間)だけ、「死」に近づいたこと。
そして、その1時間50分は、彼女たちと僕が共有した、
「たった一度きりの時間」だった、ということ。

 

紹介演劇データ

  • タイトル:『転校生』
  • 作:平田オリザ
  • 演出:飴屋法水
  • 製作:SPAC(静岡県立舞台芸術センター)
  • 劇場:東京芸術劇場中ホール(池袋)
  • 公演日:2009年3月

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