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おっちゃんの「感想・鑑賞録」

2009年4月10日

『隣人祭り』アタナーズ・ペリファン、南谷 桂子

筆者:いぬ「信頼」はシステム化できない。

この本を読んで、びっくりした。
2004年に実施されたフランスの国民世論調査によると、
75パーセントのフランス人が、パンが急に切れたら、
お隣さんに借りに行くそうだ。

昔は日本でも味噌や醤油を貸し借りしていたようだけど、
僕のマンションでそんなことしたら、
「ちょっと変わった人」の烙印を押されてしまいそうだ。
パリにはコンビニがないらしい。
てことは、朝晩、食事の支度をするときに、
開いている店はない、ということ。
それなら、なにかを借りに行っても大丈夫そう。
日本だったら「コンビニに行けばいいじゃん」とか言われそうだ。
不便さが、良好な隣人関係に寄与している、ということか。

そんなフランスでさえ、
特に都市部での人と人とのつながりは薄れているようだ。
隣人同士の没交渉、老人の孤独死、ひきこもり...、
日本でもよく聞く問題が、パリでも起こっている。
そこで立ち上がったのが、アタナーズ・ペリファンさん。
パリ17区の区役所に勤め、今では区の助役だ。
「隣人祭り」というイベントを考案、地域の人たちを集めてお食事会を開いた。
最初は小さな集まりだったが、それがパリ中、フランス中、ヨーロッパ中と広がって、
世界中で「隣人祭り」が開かれるようになった。
去年、日本でも開かれたようだ。
「隣人祭り」が広がっていく、その様子を読んでいると、
やっぱりみんな、心のどこかで「つながり」を求めていたんだなあ、と思う。
ペリファンさんは、そんな人々の心に、風穴を開けたのだ。

昔だったら誰からともなく食べ物を持ち寄って、みんなで自発的に集まって、
お酒を飲んだり話したりしてたんだろう。
でも、もうすでに「つながり」のなくなってしまった現代の人たちには、
「つながる」きっかけすらない。
変に手を上げたら、「ちょっと変わった人」の烙印を押されてしまう。
「隣人祭り」の成功には、
「出会いの場」、あるいは「つながりのきっかけ」が、
イベントのような形で、ある種パッケージ化され、システム化されることで、
だれでも気軽に参加できた、という側面があるのだろう。

でも、気になることもある。
ペリファンさんは、保育所が足りず子どもを預けられない親が、
交代で子どもたちの面倒を見る「自宅保育所システム」を考えた。
さっそく実行しようとすると、同僚が、保険はかけてあるのか、
保母の資格を持った人はいるのか、と聞いてきた、という。
もちろんそんなことを考えていては、実行できるはずがない。
「リスクは何にでも存在する」と、ペリファンさんはかまわず実行した。

これ、けっこう考え方が難しい。
子どもに何かあったとき、責任を取れる人がいない。
お互いを「信頼」するよりしょうがない。
でも、システムにするってことは、
基本的には、誰でも参加できるってことだ。
その人が信頼できるかどうかは、参加の条件に入らない。
信頼を前提としたシステムは、難しい。

サブタイトルにあるように、
「『つながり』を取り戻す大切な一歩」として、
「隣人祭り」は大いに機能するだろう。
でも、それはあくまで第一歩。
そこから作る人間関係こそがつながりの「キモ」だ。
それは「隣人祭り」があってもなくても変わらない。
きっかけはシステム化できても、
「信頼」までは、システム化できない。

 

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