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おっちゃんの「感想・鑑賞録」

2009年4月08日

『塩狩峠』三浦 綾子

筆者:おっちゃん三浦綾子さんの本を読むとは思っていなかった。

読まなくても、書いてあることはわかる。
そんな傲慢な気分だった。

でも、この前、出版のプロと食事していて、
「感動した本を上げてください、と調査したら、
いつも、三浦綾子さんの『塩狩峠』が、ベスト10に上がる」と聞いた。
いっしょにいたうちのスタッフも、感動しました、と合槌を打った。
じゃあ、騙されたと思って読んでみるか、
読んで悪いわけはない、損するわけでもないはずだ。

でも、すぐに後悔した。
主人公・永野信夫の父・貞行を評して、
    「貞行は、少年のころから帰って次第に進歩的な人間に成長していた」
この"進歩的"と言う表現に、尻込みしてしまう。
これは、小説が書かれた年代とのギャップかも知れない。

思春期の悩みに取りつかれた信夫は、
    「(そうだ。もっと本を読もう。本を読んだら、
    自分の気持ちを上手にあらわすことができるにちがいない)」と思う。
小説の舞台は、明治の半ば。
日本の教養主義の芽生えのころ。
わたしの若い頃は、まだ、この風潮は残っていた。
本を読めば、世界がわかる。
自分の世界を確立できる、と信じていた。
じゃあ、懐かしがり、共感すればいいじゃないか、と言えば、
そうじゃない、なにか、鼻白む心地になるのだ。

信夫は、悩みながら、成長する。
成長するたびに、わたしから、遠い人になる。
人間なら誰しも起こる邪な考えも、正面に据えて生きる。
若いころは、こんな人を見て、自分を叱咤激励したが、
もう、あがかない。
なれっこないことに憧れたりしない。

東京の恵まれた家庭で生まれた信夫は、
紆余曲折のはてに北海道の鉄道会社に勤め、旭川に転勤する。
晴れて、札幌に住む婚約者に結納を届けに行く朝、
塩狩峠で汽車の事故に見舞われる。
峠を逆走する汽車に乗り合わせ、
それでも、冷静さを取り戻し、
自らの体を投げ出して転覆から乗客を救う。

実話に基づいた話らしい。
すごい、すごすぎる。
感動した。
でも、いくら感動しても、自分はなれない。
太陽よりも、遠すぎる。

でも、知るに値しないか、問うてみる。
いや、自分がどれほど遠くにいるか、
自分の位置を図るために役に立つ。
みんな、ときどき、このような本を読むのは、
自分を同一視するのではなく、
きっと、自分の現在地を知るためなのだろう。

 

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日がな一日、本に囲まれて生活をするおっちゃん。おっちゃんが読んだ本や、見た映画など、ジャンルを問わず紹介します。
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