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おっちゃんの「感想・鑑賞録」

2009年3月04日

『猫を抱いて象と泳ぐ』小川 洋子

筆者:おっちゃん読み終えて、すぐ、また読みたくなった。

一行目から、催眠術にかかった。
     「リトル・アリョーヒンが、リトル・アリョーヒンと呼ばれ
      るようになるずっと以前の話から、まず始めたいと思う。彼
      がまだ親の名付けたごく平凡な名前しか持っていなかった頃
      の話である。」

小説の最後まで、読者は、その名前を知らずに終わる。
それだけではない、登場するだれひとり、名前が明かされることはない。

少年リトル・アリョーヒンは、
幼い頃、祖母に連れて行ってもらったデパートの屋上で、
昔、そこで一生を終えた象「インディラ」のことを知る。
見世物として屋上に上げられた小象は、
動物園に戻される時期を失い、ついに地上に降ることができなくなった。
家の近くには、
家と家の壁に挿み込まれたまま死んだといわれる女性「ミイラ」がいた。
ある事故がもとで、廃車したバスを家にして暮らしていたおじさんと知り合う。
少年は「マスター」と呼ぶそのおじさんは、
バスのドアを抜けられないほど、太っている。
そのマスターから、チェスを教えられた少年は、その世界に没頭する。
というよりも、「チェスの世界」だけで生きる。
しかも、少年は学校を卒業して、
からくり人形の中で、チェスを指すことで人生を全うすることになる。

からくり人形の助手を務めてくれた女性とは、
心許した会話を交わすようになる。
     「一人は動かないバスに住んでた。もう一人は屋上に住んで、
      地面には降りてこなかった。
      それからはもう一人は...」
     「もう一人も、窮屈な空間に閉じこもっていた」
     「どうして?」
     「どうしてだろう。自分から望んだわけでもないのに、ふと気
      がついたら皆、そうなっていたんだ。でも誰もじたばたしなか
      った。不平を言わなかった。そうか、自分に与えられた場所は
      ここか、と無言で納得して、そこに身体を収めたんだ。」
     「あなたも同じ?」

また、女性にチェスの棋譜の数の可能性を尋ねられて、
少年は、「十の一二三乗あるんだ。宇宙を構成する粒子の数より多い」と答える。
     「じゃあチェスをするっていうのは、あの星を一個一個旅して
      歩くようなものなのね、きっと」
     「そうだよ。地球の上だけでは収まりきらないから、宇宙まで
      旅をしているんだ」

これは、日本なのか、外国なのか、おとぎ話のような世界。
しかも、
インディラを知ったデパートの屋上、
ひとりチェスの世界に浸ったベッド、
マスターにチェスを教えてもらったバス、
仕事にしたホテル、
そして、最後の仕事場となった老人ホーム。
舞台と言えば、この五つで尽きる。
舞台劇になりそうだ。
けれど、やはり小説にしかなりえないのは、
人の会話よりも、
重要なことは、盤上のチェスで語られるからだ。

だから、あなたは、小説を読むしかない。
宇宙を旅するように、海底深く遊泳するように。
そして、祈るように。

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日がな一日、本に囲まれて生活をするおっちゃん。おっちゃんが読んだ本や、見た映画など、ジャンルを問わず紹介します。
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