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おっちゃんの「感想・鑑賞録」

2009年2月13日

『オバマ・ショック』越智道雄・町山智浩

筆者:いぬ夢から覚めたアメリカ

以前、「アメリカが好きだ」と言った。
同時に、「好きだ」ということがはばかられる時代だ、とも。
でも、もしかしたら時代は変わるかも知れない。
この本を読んで、そんな気持ちになった。

『オバマ・ショック』は、ハリウッド映画を中心に、
ポップカルチャーから政治・経済まで、アメリカに関する
数多くのエッセイやコラムを書いているエッセイスト・町山智浩さんと、
町山さんが師と仰ぐ、英語圏文学研究の専門家で、
アメリカの社会や文化についての著書も多い文学者・越智道雄さんとの対談。

「Finally!(やっとだよ!)」という言葉でこの本は始まる。
2008年の大統領選にオバマが勝利したとき、
町山さんが住むカリフォルニアの路上で、
黒人の少年たちがそう言って喜びの声をあげたという。
ブッシュの8年間を「アメリカの崩壊」と位置づける町山さんは、
「やっと」訪れたオバマの時代を、カリフォルニアの黒人少年と一緒に迎えた。

戦争で、サブプライム・ショックで。崩壊した「アメリカ」の再生。
人々はなぜ、オバマに託そうとしているのか。
2008年3月18日、フィラデルフィアの国立憲法センターでの演説で、
オバマは言った。

  私はケニアから来た黒人の父と、カンザスから来た白人の母の息子です。
  (中略)
  私はアメリカの中でもっとも優秀な大学(コロンビアとハーバード)で
  学業を修めましたが、世界でもっとも貧しかった国の一つ(インドネシア)で
  少年時代を送りました。
  (中略)
  私の兄弟は、姉妹は、姪や甥は、おじやいとこは、
  あらゆる人種、あらゆる肌の色で、三つの大陸に住んでいます。

黒人でもなく、白人でもない。キリスト教でも、イスラム教でもない。
どこにも属さない。ただ「アメリカ人」だというだけ。

  越智 だから、オバマをひと言で表現するなら
       「絶対的アウトサイダー」ということになると思うんです。
       人種、階級、コミュニティ、家族関係などあらゆる側面で、
       どこにも帰属してこなかった、あるいは帰属できなかった人ですね。
  町山 逆に言えば、どこにでも帰属するとも言えます。
       演説でもそのことを強調しています。さまざまなアメリカを内包する自分は、
       バラバラになったアメリカ再統合の象徴だと。

多様な価値観のせめぎ合うアメリカを、
多様なまま、まとめ上げるために、
どの価値観にも属さず、
それゆえすべての価値観と対話しうる「絶対的アウトサイダー」。
オバマに、アメリカは希望を託した。

誰よりも、町山さん自身が「多様なアメリカ」の復活を待ち望んでいた。
日本人を母に、韓国人を父に持った町山さんだが、
「韓国の言葉も文化も歴史も何一つ」教わらなかったという。
それなのに国籍は韓国籍、名前も韓国名。
日本に帰化した後でも、父親が外国人だと語ると、
周囲は町山さんを外国人として扱った。

  一〇年ほど前、ついに僕はアメリカに渡った。妻はアメリカの会社に就職し、
  子どもが生まれ、家を買い、イタリアやドイツやイランやクウェートや
  ガーナやトルコやマーシャル諸島やインドや中国や韓国やモンゴルや
  グアテマラやメキシコから来た人々と近所づきあいしながら、
  ようやく自分の居場所が見つかったように感じた。

しかし、移住してすぐ「ブッシュの8年間」で、町山さんの「居場所」は失われた。

  とにかく道理がまるで通らない理不尽な八年間で、
  星条旗の下の「合衆国」は、ブッシュを支持する田舎と
  ブッシュに反対する都市部との二つに対立し、
  世界一の大国の威信は地に落ち、
  努力すれば豊かになれるはずのアメリカン・ドリームは
  住宅&金融バブルとともに粉々に砕け散った。

国籍は日本人でも、
今や「アメリカ」の一員として暮らす町山さんにとっても、
オバマは希望なのだ。

  そして、私は、生きている限り決して忘れません。
  私の物語が可能な国は、この世界中でアメリカだけだということを。

このオバマの言葉のように、誰もが「自分の物語」を実現でき、
町山さんのように、誰もが「居場所」を見つけることができる、
そんなアメリカが戻ってきたとしたら。
それはついに(Finally!)「僕の好きだったアメリカ」が再び姿を見せた、
ということなのだろう。

課題は多い。でも時代は変わるかもしれない。
ただ、それは、僕にとっては手放しにうれしいことではない。
なぜかと言えば、
町山さんが出て行った国、僕が住んでいる国のことを、
僕は考えてしまうからだ。

 

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