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おっちゃんの「感想・鑑賞録」

2009年1月14日

『時のかけらたち』須賀敦子

筆者:おっちゃん見送り終えたあとの須賀さんが知りたかった。

須賀敦子さんの本を読んでいると、
須賀さんと二人で散歩でもしているような気分になる。
こんな贅沢な読書はない。

「ヴェネツィアの悲しみ」の章で、須賀さんは言う。
       ― はてしない虚構への意欲。それをヴェネツィアの人たちは
         何百年もかかって、この島でつちかってきた。
         島に住んでいることのたよりなさを忘れるために。
心もとない「島」は、日本も同じと思うけれど。
       ― もとは小さなふたつの島であったのを、
         彼らは、まず木の骨組みを海に埋め、
         その上に泥を置き、石材を積みかさねることで
         ひとつの都市の形態に島を作り変えた。
さらに、ロマネスクからゴシックへ、ゴシックからルネッサンスへと、
都市を発展させてきたが、
       ― 飾りたてても飾りたてても、足のずっと下のほうが水であることが、
         彼らの意識から消え去ることはけっしてない。
その暗さに引かれていったのは、おっちゃんにもよくわかる。
       ― まるでアリジゴクに堕ちた小さな昆虫のように私は
         ヴェネツィアの悲しみに捉えられ、それに寄り添った。
でも、須賀さんは、その悲しみを越えて、
生きていこうとしてたじゃないですか。
       ― 枠をおろそかにして、細部だけに凝りかたまっていたパリの日々、
         まず枠を、ゆったり組み立てることを教わったイタリアの日々。
         さらに、こういった、なにやらごわごわする荷物を
         腕いっぱいにかかえて、日本に帰ったころのこと。
         二十五年がすぎて、枠と細部を、貴重な絵の具のように
         すこしずつ溶かしては、まぜることをおぼえたいま、
         私は、ようやく自分なりの坂道の降り方を覚えたのかもしれない。
いや、須賀さんは、もう降り切ったんですよ。
すべてを、見送ってきました。
これからは、「少しずつ溶かした絵具」で、
新しい物語を書いてほしかった。
ご主人がお好きだったペナンの詩の中の少年のような。
       ― ヴェネツィアの小さな
         広場は古風で哀しげで、
         海の香りを愉しんでいる。
         また、ハトの飛翔を。
         だが、記憶に残るのは
         ―光はそのまま恍惚をもたらし―
         自転車の少年がさっと通りすぎ、
         友によびかける。
         唄に似た空気のそよぎ。
         「きみ、ひとりなの?」
確かに深い「孤独」はつらいけれど、
そこに生きた時間を感じれば、人は耐えていける。

季刊誌『考える人』最新号は、
「書かれなかった須賀敦子の本」が特集されている。
『時のかけらたち』との散歩の仕上げに読んでみよう。

 

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日がな一日、本に囲まれて生活をするおっちゃん。おっちゃんが読んだ本や、見た映画など、ジャンルを問わず紹介します。
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