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おっちゃんの「感想・鑑賞録」

2008年12月24日

『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたのか』岡田芳郎

筆者:おっちゃん「生きること」がいちばんの作品だった男の物語。

ときどきTV番組のタイトルに見るような、
長ったらしい著書名は、何を意図してはんねやろ。

著者・岡田芳郎さんは、大阪の万博から活躍する、
電通で有名なプロデューサーだった。
その商売根性からでっしゃろか。

いや、たとえ買ってもらえなくても、
せめてタイトルを立ち読みするだけでもいい、
こんな男がいたことを知っていてほしい、
と云う切なる願いが籠っているように思う。

主人公、佐藤久一は、山形県酒田に生まれる。
戦後、親が建てた映画館の業績が芳しくない。
日大芸術学部に通っていた久一に、親は、立て直しを託す。
一九五〇(昭和二五)年一月五日、
学業半ばにして、映画館「グリーンハウス支配人」に就任する。
久一、二〇歳の誕生日だった。

映画館の支配人を降りた後は、料理の世界に転身する。
― 映画館「グリーン・ハウス」の先見性と快適性については、
   淀川長治や荻昌弘たちが、
   レストラン「ル・ポットフー」の豊饒な料理の数々と
   献身的なサービスについては、
  開高健、山口瞳、丸谷才一たちが讃辞を残している。―
映画館、レストラン、どちらも支配人として輝かしい業績を残す。

料理についていえば、地元の素材へのこだわりは尋常ではない。
たとえば、桜鱒は、川にのぼってきて一週間目の物と、魚屋に注文をつける。
― 桜鱒がいちばんおいしいのは、4月下旬、
   海から川にのぼってきて1週間目あたりだという。
   川に入ると餌を食べなくなる桜鱒は、
   脂が落ちて川の水になじんだ頃が食べ頃で、
   久一はまさにその1週間目の鱒を持ってくるようにと
   丸十の佐藤光一に注文した。
   しかし、川に入ってからの日数をどうやって知ればいいのか。
   光一も漁師も、久一に注文されてから勉強を始めた。
   そして、桜鱒が川を遡上する速度や堰堤で休む日数などのデータを総合し、
   この辺で釣れる桜鱒が1週間だという結論を出したのである。―

そして、お客さまに出す時には、苦労・手間の影は微塵も見せず、
―「今日のこの魚は、日本海の港をぶらぶらしているときに
    ぱっと目にとまったんです。
    偶然、この活きのいいヤツにめぐりあいました」―
と、偶然を強調することで客を喜ばせる、という心憎いサービス心。

しかし、そこまで一心をこめたレストラン経営からも、晩年は遠ざかる。
体力も弱り、心許した友人に、
― 「いや、私は何も成しとげられなかった。夢を見続けているだけなんだ」―
と、弱音を吐くことになる。

そして、
― 一九九七(平成九)1月二三日、佐藤久一、永眠。
   享年、六七歳。
   戒名、満月智九居士。
   世界一の映画館と日本一のフランス料理店の支配人だった男が遺したものは、
   簡易保険の二00万円。それがすべてだった。―

本の帯の副題に「夢追い人の物語」とある。
夢を追い続けて、わずかな金しか残せなかった人は、幸せだったのか。
幸せでなくても、満足だったのか。

読み終えて、「自分の人生って、何なんだろう」という気持ちになった。
誰も答えてくれないけれど。

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日がな一日、本に囲まれて生活をするおっちゃん。おっちゃんが読んだ本や、見た映画など、ジャンルを問わず紹介します。
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