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おっちゃんの「感想・鑑賞録」

2008年12月17日

『荒地の恋』ねじめ正一

筆者:おっちゃん詩人・北村太郎、遅い目覚め。

詩人って、たいへんだ。
ならなくて、よかった。なれなくて、よかった。
落語家の本を読んだ時も、つくづく思った。
若いころは、芸術家にあこがれたが、
ほんま、才能のない幸せを痛感する。

帯の言葉が刺激的だった。
「五十三歳で親友の妻と恋に落ちたとき、詩人は言葉を生きはじめた。」
親友とは、荒地の仲間、田村隆一。
その妻は、明子。
そして、主人公の五十三歳の詩人とは、北村太郎。

田村隆一は、
― 荒地の詩人たちの中でもっとも華やかな存在である。
  とくにここ数年はウイスキーのテレビコマーシャルに出演したりして、
  ダンディで無頼な詩人のイメージが、詩を読まない大衆の人気まで集めている。―
反して、北村太郎は、五十三歳にして、
― 朝日新聞校閲部に入って以来二十五年間慣れ親しんだ疲労感だ。
  水に濡らした紙が全身に張り付いているようなこの疲労感、
  神経の一本一本が縒り合わさってにっちもさっちも
  行かなくなったようなこの疲労、
  これこそが俺にとっては生きているという証なのだ、― と、
著者に云わせるほど、いささか、くたびれた詩人。
しかも、
― 十四歳で詩を書き始めて五十三歳までに出した詩集は
  現代詩文庫をのぞけばわずかに二冊、
  一九六六年に出した『北村太郎詩集1947~1966』と
  四年前に出した『冬の当直』だけである。―
そんな地味な詩人が、華やかな親友の妻と恋に落ちた。

それも、田村隆一の頼みごとで、
その妻明子との出会いがきっかけとなる。
田村は、北村が昔翻訳したスパイ小説を、
違う出版社から「共訳」という形で出そうという申し入れをする。
田村は何もせず、翻訳料をせしめ、
北村は手直しのために、また詩を書く時間をなくす。
虫のいい田村と、愚直な北村。

その北村が、家族と別れ、
明子とアパート一間の暮らしに入り、
そして、別れて、また、二十代の女性と出会い、恋に落ちる。
恋に生きたためか、
家族と別れたためか、
北村は、堰を切ったように、詩を噴出しはじめる。

こうして綴ると、奔放な人生に転換したように思えるが、
意外と静かに時は流れる。
川の流れのような自然さ。
田村と明子と北村の奇妙な友情も、北村が死ぬまで続く。

立川談春さんの「赤めだか」の中で、
「落語は、人間の矛盾を肯定する。」と、
立川談志さんの言葉が紹介されていたけれど、
小説の中では、どんな人生も肯定できる。

ありがたい。

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日がな一日、本に囲まれて生活をするおっちゃん。おっちゃんが読んだ本や、見た映画など、ジャンルを問わず紹介します。
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