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おっちゃんの「感想・鑑賞録」

2008年12月12日

「冒険王」青年団

筆者:いぬ「どこへも行けない人たち」の冒険

1980年。
モスクワオリンピックが開かれた。
ソニーから、ウォークマンが発売された。
アメリカでセント・へレンズ山が噴火し、
世界の気温が下がった。
山口百恵と三浦友和が結婚した。
サルトルが死んだ。チトーも死んだ。
そんな年。

イスタンブールの安宿の一室に集まる日本人たち。
それぞれがそれぞれの事情を抱え、旅をしている。
大学を休学し、インドをめざす若者。
サラリーマンを辞め、もう何年も世界中をぐるぐる回っている男。
一人旅の女。
「俺、ギリシャ人だもんね」とうそぶき、
アテネで針金売りをしているという男は、
日本から男を追いかけてやってきた妻の話で、
国語の教師を辞め、妻と子どもを置いて旅に出ていたことが分かる。

自由に、きままに旅を続ける放浪者の一日。
その群像を通じて平田オリザが描いたのは、
「どこへも行くことのできない」人たちの姿だった。

日本人どうし集まって、安宿の一室を占拠する。
部屋の中には、日本から持ち込んだ雑誌が散乱している。
山口百恵の結婚に驚く。
新参者の旅人が持ち込んだウォークマンが気になってしまう。
結局、イスタンブールにいても「日本」からは離れられない。
さりとて、日本に戻る気もしない。
居場所がないから、旅を続ける。
このサイクルから、降りられなくなってしまっている。
だから、この芝居に登場する旅人たちは、どこか不安げだ。

それでもやっぱり、これは「冒険」の話だ。
長逗留を決め込んでいるように見えた男が、
芝居の終盤、突然の出発を決める。
荷物をまとめ、まわりが「そんなに急ぐことはないじゃないか」と
止めるのも聞かず、宿を出て行く。

もちろん、出て行ったところで、なにかが変わるわけじゃない。
結局はあてのない旅の続き。「どこにも行くことができない」ことに変わりはない。
でも、どこへも行けない人たちが、それでもどこかに行こうとしてあがく、
その「あがき」の中に冒険はある。そう思った。

紹介演劇データ

  • タイトル:『冒険王』
  • 作・演出:平田オリザ
  • 劇団:青年団
  • 公演日:2008年12月
  • 劇場:こまばアゴラ劇場(駒場東大前)

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日がな一日、本に囲まれて生活をするおっちゃん。おっちゃんが読んだ本や、見た映画など、ジャンルを問わず紹介します。
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