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おっちゃんの「感想・鑑賞録」

2008年11月12日

『買えない味』平松 洋子

筆者:おっちゃんこの本読まなきゃ、人生の損です。

食べることだけじゃない。
調理することも、配膳することも、後片付けすら、
日々のいとなみが、なんと官能的であることか。

『買えない味』を読むと、
食べることしか関心のないおっちゃんでも、しみじみ、そう思う。
箸置き、白いうつわ、取り皿、テーブルクロスなど、
たぶん、どこの家にもあるものを題材に、珠玉のエッセイ集。

冒頭の『箸置き』は、日めくり暦の話から始まり、
― くるりめくれば、ひらり巡り来る新しい一日。
  朝一番に暦を繰るそのたび、変哲もないいつもの日常のひとこまなのに、
  なにやら胸の内に晴々とした明るさが滲んで広がるのである。
  ああ、いっしょだなこの感じ。日に数度、おなじような瞬間がある。
  箸置きを置くときです。
  ぱちん。  ―

ああ、文章に酔いそうです。
いつもの日常が、あでやかに姿を変える。

全編、官能にむせぶ『指』は、
「扉の閂を落とすように、夏はぱたりと終わる。」で始まる
桃の皮は、指で剥く。だから、
― かぶりつく前、いっとう最初に指先がたっぷり味わっている。―
  このことに目覚めたのは、インド旅行で、指を使って食事をしたとき。
  チャパティ、ごはん、カレーを指で食べながら、
「そうか、指も舌なのだった。」と著者は発見する。
その最後は、
― 汁のすじみちがつつーっと手首に一本、
  あわてて舐めてみるけれど、痒さを残す肌がかすかに腫れて赤い。 ―
官能的な文章の凄み。思わず、身をすくめ、体で反応する。

『熟れる、腐る』の締めくくりは、
― 旬がいいのはあたりまえ。勝負は旬が過ぎてから。
  ただし、熟れるか、腐るか。明日はどっちだ。 ―
この宙に舞うような締め。
この気風の良さ。小股の切れ上がった文章だ。

このエッセイの中には、さまざまな年齢の女性がいる。
優美、優雅、清楚、おきゃん、闊達、さまざまな表情が顔を出す。
どれもこれも、チャーミングだ。
でも、無理やり、一人だけを選べば、『冷やごはん』の女性。
― 酒を切り上げるのに、締めくくりにあたたかいご飯と熱い汁では、
  ちょっと。酒の最後はにぎやかに盛り上げておしまいにするのは性に合わない。
  どちらかといえば、ゆっくり萎むように沈鬱なかんじでしずしずと終わりたい。
  そこで冷やごはんの出番だ。小ぶりの椀に冷やごはんをよそい、
  箸で少しずつすくい上げてはもそもそ口に運ぶのである。
  そういえば、二日酔いの朝の情けなさにしっくりくるのも冷やごはんである。 ―

ああ、この本に、恋しそう。
おっちゃん、老いらくの恋か。

 

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日がな一日、本に囲まれて生活をするおっちゃん。おっちゃんが読んだ本や、見た映画など、ジャンルを問わず紹介します。
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