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おっちゃんの「感想・鑑賞録」

2008年10月10日

「呼吸機械」維新派

筆者:いぬ名も無き者たちが積み重ねる時間。

関西をベースに30年もの間活動を続ける劇団・維新派。
4年ぶりの野外公演。
彼らは琵琶湖の湖岸に大きな舞台を作った。
日が暮れてから、会場に着く。
木組みの観客席を後部から登っていくと、舞台面が見える。
プロセニアムで切り取られた湖岸。その奥は、ただ漆黒の水面。
座って開演を待つ。明転し、やがて白塗りの役者達があらわれる。

「ダン、ダ、ダン、ダダン」。
変拍子の音楽に合わせ、足を踏みならしながらの群舞。
舞台袖から列をなして行進してくる役者たち。
その隊列は規則正しく、力強い。

第二次大戦前後の東欧・ポーランド。
戦時下の混乱の下、たくましく生きる戦災孤児たち。
やがて成長し、戦後の復興の中、それぞれの道を歩いていく。
しかしストーリーよりも強く印象に残ったのは、
舞台を駆け抜けていく、名前も役もない、白塗りのいくつもの身体だった。

歴史はいつだって無名の人間によって作られる。
いや、ちがう。
時の宰相や軍人、「名を残した者たち」が作った歴史とは別に、
あるいはその裏に、
「名も無き者たち」が作る歴史がある。

舞台面いっぱいに広がって踊る、
白塗りの、帽子を目深にかぶり、個性を消した人々。
彼らの身体はそのまま、
「名も無き者たちが積み重ねる時間」をあらわしている。
歴史の波に翻弄される市井の人々。
そうした一面的なものの見方から僕を解き放つ。
時間を積み重ねたのは、歴史を作ったのは、ほんとうは彼らだ。
足を踏みならし、手を振り上げ、そう精一杯主張している。

孤児たちの中に、兄弟がいた。
終戦後、一人は自由主義者になり、一人は共産主義者となる。
いくつかの偶然が重なり、
弟が兄を誤って撃ち殺してしまうことで、
物語は一応の終わりを迎える。
しかしその悲劇すらも、「名も無き者たち」のうねりの中に飲み込まれていく。

幕開けとまったく同じ振り付け。行進のような舞踏で、芝居は幕を閉じる。
違うのは、すべてを洗い流すように舞台面を流れる、大量の水。
足を踏みならす。そのたびに水しぶきが上がる。
役者の身体はずぶぬれになる。
舞台も役者も、漆黒の琵琶湖に溶けていく。
終わったとき、舞台の上にはなにもない。誰も残っていない。

カーテンコール、袖から挨拶に出てきた役者達を目にして、僕は理解した。
「名も無き者たちが積み重ねる時間」は、もう一つあったのだと。

何か月か前から集まって練習を繰り返し、
この作品を作り上げたという維新派の役者たち。
専業はほとんどいない。
あるいはバイトを辞め、あるいは学校を休み、
時間を工面して参加しているという。
彼らもまた、「名も無き者たち」だ。
維新派の芝居に「主役」はいない。「看板役者」もいない。
劇団の歴史に名を残す人は、ほとんどいない。
それでもそれぞれが自分の時間を少しずつ持ち寄り、積み重ねていく。
観客は「名も無き者たちが積み重ねる時間」を観に、
今日も、明日も、やってくる。

紹介演劇データ

  • タイトル:『呼吸機械』
  • 作・演出:松本雄吉
  • 劇団:維新派
  • 公演日:2008年10月
  • 劇場:さいかち浜野外特設劇場(滋賀県)

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日がな一日、本に囲まれて生活をするおっちゃん。おっちゃんが読んだ本や、見た映画など、ジャンルを問わず紹介します。
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