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おっちゃんの「感想・鑑賞録」

2008年9月10日

「眠れない夜なんてない。」平田オリザ

筆者:おっちゃん水虫を掻くような「イタ痒い」快感。

公演会場の吉祥寺シアターに、開演5分前に劇場に着いた。
ホールの扉は開いていた。
入ると、ひな壇に下りていく席。
小さな谷底に、丸く突き出してステージがあった。


ホテルのロビーのような設えのステージには、すでに役者がいた。
ひとりの男性は、ソファーにかけ、新聞を読んでいる。
少し離れた丸テーブルには、雑誌を開いている女性。
けだるさが漂う。
それは、ふたりの人生を示しているのか、
まだ、芝居が始まっていないことを、緊張感の乏しさで表現しているのか。

ふと、男性が立ちあがった。
見上げられた。
「ええ、演じるのは、ボクか?」
立場が逆転したような戸惑い。
「そうよ、座席のキミも日常を演じているじゃないか。」
「だから、今日はそれを見てやるよ。」と、
攻め込まれるような気分。
座席のボクと、ステージのボクが見つめあう。

錯綜した思いの中で、
いつしか、芝居がはじまった。

マレーシアのリゾート地に建つ定住型ホテルのような施設。
日本的、至れり尽くせり、快適真心サービスの施設で、
リタイア後の人生が開幕する。

ふた組の夫婦とひとり暮らしの男性が中心の物語。
ひと組の夫婦の夫は、まだリタイアとは言えない。
東南アジアを駆け回ってエネルギッシュに商売をしている。
タイには、愛人もいるらしい。
妻は、マレーシアくんだりまで来て、
日本と同じような「夫と疎遠な暮らし」をしている。

ひと組の夫婦は、独立した子供と離れ、
マレーシアで骨を埋める様子。

もうひとりは、一人で暮らす男性。
ときどき、日本から娘が訪ねてくる。
父を気にかける娘は、
「ここでいっしょに暮らしてもいい。」と言ってくれる。
故国を離れて暮らすと言っても、孤独な匂いは深くない。

夫が現役の夫婦の妻を、
その高校時代のクラスメートが訪ねてくる。
自分たちの老後のための施設見学が目的。

これは、ご都合主義の夫婦。
人のプライバシーが、大好物の妻。
象のような優しい目をよそいながら、
トラのように隙を狙う。

夫は、自分の都合だけで人と付き合いたい。
だから、妄りにひとには近付かない。
トラの隙を狙うハイエナのよう。

その二人の心情が、ちょっとした「しぐさ」で表現される。
「くッくッくッ」と
小さい泡のような笑いが浮き上がって、
はじけずに消える。

ひと組の夫婦、
その夫が不治の病であることがわかる。
娘も妻も、日本に帰って治療するように説得するが、
夫は、このままマレーシアにとどまりたい、と言い張る。

その会話を耳にした、独りで暮らす男性が、
「日本が嫌いなんだよ」とささやいて、ドラマが終わる。

マレーシアで暮していても、日本を離れているわけではない。
快適に老後を暮らせるのも、日本の経済力があればこそ。
海外でも、日本的サービスがあればこそ。

それなのに、「日本が嫌い」とは、厚かましい。
身勝手な、
と言いきれないのは、
身勝手な夫婦の
いやしい「しぐさ」を見るだけでも、
納得してしまう「かなしさ」。

小さく笑うたびに、
なぜか、水虫を掻く、「あのイタ痒さ」を思い出した。

紹介演劇データ

  • タイトル:『眠れない夜なんてない。』
  • 作・演出:平田オリザ
  • 劇団:青年座
  • 公演日:2008年6月28日(土)
  • 劇場:吉祥寺シアター