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おっちゃんの「感想・鑑賞録」

2008年9月19日

新宿駅最後の小さなお店 ベルク

筆者:いぬなにげない、居心地のよさ

10年ほど前、わずか4か月ほどですが、
アメリカにいました。
ワイオミング州・ランダーという小さな町。


http://maps.google.co.jp/maps?q=lander%20WY

地図をご覧いただけば、わかってもらえるでしょうか。
町の周囲には、絶望的なまでになにもありません。
車で10分ほど走らせると、見渡す限りの荒野。
そんな超ド田舎をベースキャンプに、
「NOLS(National Outdoor Leadership School)」という、
アウトドアの指導者を養成するスクール(NPO)で学びました。

ランダーには、「Garnet Grill」という名のパブがあります。
名物は、たっぷりの生野菜と地元でとれた(多分)牛肉をつかったサンドイッチ。
お酒が飲みたければ、地ビール「Snake River」がオススメ。
ビリヤード台があって、長居もできます。

山から帰ってきたNOLSの生徒達は、肉と野菜に餓えています。
1か月近く、小麦や米みたいな穀物しか口にしていないのですから。
だから、デブリーフィング(解散式)が終わると、
まだ日も高いうちから「Garnet Grill」に、
NOLSの生徒(のうち、お酒を飲んでもいい人たち)が殺到するのです。

サンドイッチやサラダ、フレンチフライを肴に、
ペールエールをピッチャーでバカバカ空けていくうちに夜は更けていきます。
するとどこからともなく、牧場での仕事を終えたカウボーイ達がやってくる。
テンガロンハットにウエスタンブーツ。ベタな格好だから、すぐわかる。
彼らも飲んで、酔って。最後は、歌って踊りはじめます。

肉も野菜も旨いし、ビールも旨い。
おまけに雰囲気もいい。誰もが気軽に話し合える空気がある。
誰だ、アメリカのメシはマズいとか、
どこに行ってもファーストフードしかない、とか言ってたモノ知らずは?
こんな地の果てみたいな(失礼。でも当時の僕には本当にそう思えた)場所にだって、
おいしい食事とそれを楽しむ文化があるじゃないか。
みたいなことを酔っぱらいながらヘタクソな英語でまくし立てていると、
ニューヨークの近郊からやってきたという女の子が、ポツリと言った。
「この町みたいに"小さなお店"が元気よくやっていける町は、もう珍しいのよ」

聞けば、アメリカの片田舎にあった飲食店や個人商店は、
大型スーパーとショッピングモール、ファーストフードに、
次々と取ってかわられているのだという。
「インターステート(州間道路)を車で走っていても、同じ顔をした町ばかり」
と言います。

確かにランダーにも、メインストリートには大型スーパー、
町はずれにはファーストフードのチェーン店があった。
それらの店を利用しなくても、十分魅力的な店があったから、気付かなかった。

今、日本の地方で起こっていることが、10年前のアメリカで起こっていた。
うおお、これが「グローバリゼーション」というヤツなのか。と今なら思いますが、
当時の僕は、そんな言葉を知らなかった。
でも、アメリカの町が、地方が、変わってきているということは分かった。

少し、前置きが長くなりました。なにが言いたかったか。
この本で語られている店「ベルク」も、
新宿駅東口に残された「小さなお店」なのです。
僕も何度か訪れたことがある「ベルク」は、一見なんでもない店です。
職人に特別にブレンド、焙煎してもらったコーヒー。
ビアマイスターがセレクトした地ビール。それにホットドッグ。
自家製のカレーも絶品です。
値段は手頃。座席もありますが、多くの人はスタンディングで利用し、
短い時間で立ち去っていきます。
派手な演出はありません。高級な食材も使っていません。
でも、毎日通ってもあきない。
こんな「なんでもないけれどおいしい」お店は、どんどん少なくなっているのです。

「ベルク」店長の井野さんは、この本の中で言っています。

店を自分のものだと思ってはいけない。
経営者はとかく店の都合を優先させてしまう。
でも、店はお客様のものだという意識も必要。
店はみんなのもの。
自分もその一員。

ある時、お店のカベを使って写真展を開こうと写真掲載の許可を申し出たら、
常連客だった写真家の本橋誠一さんが、
オリジナルプリントを提供してくれたことがあったと、本には書いてあります。
これも「店はお客さまのもの、みんなのもの」であることを、
よくあらわしている話ではないでしょうか。
本書が出版されたのも、常連だった編集者の企画持ち込みがきっかけでした。

客に愛されるだけでなく、客を巻き込んで、一緒に店を作り、店を育てる。
思えば「Garnet Grill」には、うっかり毎晩通ってしまうような、
なにげない居心地のよさがありました。
その「なにげない居心地」はきっと、アメリカ中からやってきた学生と、
地元のカウボーイ、町の人たちが一緒になって作り上げたものなのでしょう。

僕の身近にも「ベルク」や「Garnet Grill」のような、
「小さな店」が欲しい、と思うことはあります。
ですがそれには、僕に、あるいは僕の住む町に、
「小さな店」を育てていく気概と覚悟が必要です。
今の僕にはなかなかできないことだとも、思うのです。

 

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